SIMフリー版 iPhone 4G とドコモのUSIM単体販売が「NTT docomo版 iPhone」を生む
はじめに
この大型連休の序盤、PC Watchにおいて、本田雅一の週刊モバイル通信 ドコモのiPad用SIM発売とiPhone 4G
という記事が掲載されていた。Windows Phone FAN でも同じようなことを推測していたため、ネタがかぶってしまったが、異なる論拠から期待を込めて「NTT docomo版 iPhone」について考えたのでご紹介したい。
関係各社への取材を行った記事ではありませんのであらかじめご承知おきの上ご覧ください。
だから、NTT docomo版 iPhone は登場する
Windows Phone FAN での「NTT docomo版 iPhoneが登場」という結論に至る理由を簡単にまとめたのが、このスライドだ。この後のテキストは、この図の中身を順に説明しただけに過ぎない。


アップルとソフトバンクも2年が経過
長かったソフトバンクのラブコール期間と努力期間
2008年6月、アップルの iPhone 3G
がソフトバンクから提供されることが正式に発表された。さらにさかのぼること2年、2006年5月 NIKKEI.NETでは、iPhone の発売よりも先に「ソフトバンク、アップルと携帯で提携
」という報道を行っている。このときは両社から正式に決まった内容はない、などの発表がなされたが、この頃から、アップル社とソフトバンク社は何らかの話をしていた可能性が高い。すでに4年も前の話だ。その後、2008年7月11日にソフトバンクより、iPhone 3G
が発売。当時のアップル社の方針で、各国 1キャリアとの独占販売という形態をとった。今でこそ 0円スマートフォンとして人気を得ている iPhone 3G
だが、発売当初は高い価格と 7,000円を超えるの月額基本料の高さ
に随分と苦しんだ
ようだ。しかし、販売数が伸びなかった、アップル社との翌年の継続契約を勝ち取るため、iPhone ユーザーからはパケット通信定額サービス利用料で、高い ARPUを稼げることが分かった、など複数の理由からため、2009年2月末より「iPhone for everybody」キャンペーンをスタート
。契約条件は若干変化を続けているものの、未だに本キャンペーンが続いているほど、iPhone 販売に効果的だった。新機種の発売前になると (すなわち、iPhone 4G 待ちの今もそうだ)、一部の販売店で、“店舗独自” という位置づけで、3万円程度のキャッシュバックキャンペーンも行われるのも定番だ。
結果として、iPhone 3G / 3GS あわせて、2年間で 日本では 200万台から250万台程度を販売した
と言われている。(MM総研数値では、2009年度だけで 170万台としているが、Windows Phone FAN では 2008年度はこの半分も売れていないのではないかと推定している)
iPhone は日本でも独り立ちした
この2年間で、随分と市場を取り巻く状況は変化した。
ソフトバンクの0円キャンペーン
のおかげで、iPhone は誰もが知るスマートフォンになり、首都圏に限って言えば、電車の中などでも、ガラケーと変わらないほど見かけるようになった。また、IT系企業の方と打ち合わせると若いエンジニアほど、iPhone 所有率も高いなど、着実に、そのブランド力は浸透している。聞くと、新しい iPhone が発売されたら買い換えたいというユーザー数も、それなりにいるし、価格も 4-5万円だったらという声も少なくない。(もちろん、その一方で、iPhone 3G のままで使うというユーザーも少なくない)
ソフトバンクのままでは iPhone の売れ行きは鈍化していく懸念
一方で、ソフトバンクに対する基地局の少なさや、通信速度の対する不満は大きく、孫社長が繰り返し Twitter上で基地局増強を約束しているが、なかなか実行は伴っていないようだ。そもそも、孫社長は 2006年の決算時にも「4つのコミットメント」として、基地局倍増を歌っているが、実際には中継局も含めての倍増であり、ユーザー一人あたりの通信速度向上にはまったく寄与していないことも、同社幹部によって明らかにされている。
。こうした中で、Windows Phone FAN のアンケートにおいても、同じ機種なら、ドコモから出た方がよい
という意見が、ソフトバンクから出た方がよいと答えたユーザーの 5倍にも上る。
こうした中で、NTT docomo が2010年4月1日に発売した、ソニーエリクソンの Android携帯 XPERIA
は20日間で10万契約を突破し、“ドコモの iPhone (スマートフォン)” が強く望まれていることを裏付けした。
ソフトバンクにとっては、iPhone は大事な端末であることは変わりない。どれだけ帯域を使って、ユーザーあたりの通信速度が遅くなってもユーザーは離れない。しかも、ソフトバンクの経営的な視点で見れば、高 ARPU と、ドコモからの MNP をもたらしてくれる価値がある端末である。そして、一般的な携帯端末とは異なり、アプリ数の増加とともに、その価値が日々高くなっていくという非常にありがたい存在だ。一般的な携帯電話では、発売後 1~2ヶ月経つと売れ行きが鈍ってくるが、iPhone は1年経っても安定して販売することができる。当初は苦労した販売員のトレーニングも、一度行ってしまえば、変える必要がないから返って効率がいい。しかも、開発費なども一切かからない。iPhone ビジネスにおける自社の役割は料金施策、店頭キャンペーンのみ、と元々がソフトのパッケージビジネスという流通業からスタートしたソフトバンクにとって、iPhone は人材的な強みも活かせる最高の端末だろう。
アップルの世界戦略は SIMフリーに向かう
「iPhone 4G」の販売にとってキーを握るアップルはどうだろう。
アップルの場合、製品展開は、シンプルに統一された世界戦略が基本だ。
世界の中において、日本は確かに重視されているかもしれないが、日本だけをみて戦略が決定されることはない。その点、米国においても、AT&T と Apple の iPhone 独占契約については、そろそろ限界ではないか
という声が出始めている点が注目される。こちらも、日本における アップルとソフトバンクの関係にそっくり。結果米国でも、複数キャリアからの iPhone 発売が噂されている。世界でみると、すでに、iPhone は既に SIMロックフリーでも販売されているが、日本に持ち込むためには、技術基準適合認定マーク (技適マーク) の表示が必要だ。こうした部分も含めて対応していくのは、アップル社の仕事になるわけで、それを行うためにはやはりアップル社としての「SIMフリー」化への方針が不可欠だ。
一方でアップルは、既に iPad 3G版を SIMフリーで販売している。こちらをキャリア独占販売にしなかった目的は定かではないが、一つには iPhone のテスト販売的な意味づけもあったと想像している。結果、iPad の人気は? というと、iPad Wi-Fi版は 100万台を販売しており、続いて発売されたばかりの 3G+Wi-Fi版の結果が注目されるところだろう。こちらがアップルが期待した売上台数を超えるならば、iPhone 4G でも、SIMフリー版が設定されるように思う。
先週(4月末)、アップル製品がオンラインショップから姿を消す
というニュースがネット上で話題を集めたが、どれだけ波紋があろうが、やると決めたらその方向に向かって確実に動くのが、スティーブ・ジョブズ率いるアップルだ。SIMフリー化の方針も、米国で決めたのであれば、日本でも同様に SIMフリー版が発売されるだろう。
NTT docomo は?
最後に、NTT docomo の動きだ。
NTT docomo は今年 2010年度にスマートフォンを 100万台売る、としている。また、iPad 向けにミニSIMの発売も予告している。今のところ、単にミニSIM が端末フリーで提供されるだけで、いわゆる「定額データプラン」で、1万円近い料金が適用されるままなのか、iPad 指定でスマートフォン向けの「パケ・ホーダイダブル」が解禁されるのか、などは明らかになっていない。
しかし、iPad 向けと言っている以上、また、ソフトバンクも同様の取り組みをする可能性がある。iPad ユーザーの利用パケット数や、ユーザー数の伸びなども慎重に見ながらということになるだろうが、最終的には、ソフトバンクと同様の月額 5,000円に収斂していくのではないか、と考えられる。
こうした動きは、SIMフリー版の iPhone 4G が登場すれば、さらに加速することだろう。
望んでいるユーザーが相当数おり、多少、利用料金が高くてもドコモを選択しているユーザーは少なくないのだから、これを取り込まない手はないだろう。
SIMフリー版 iPhone はいくら?
ユーザーから見たときに気になるのは、iPhone 3G のSIMフリー版の価格だろう。
いわゆる実質支払額という意味では、32GB版で 6万円前後なのではないか、と考えている。これは、ソフトバンク版の現在の端末価格設定より若干高価 ( (月月割額 1,920円/月 + 負担額 480円/月) × 24ヶ月 = 57,600円) であり、かつ、香港で入手できる SIMフリー版とほぼ同額
という考え方だ。
実際には、アップルはこの価格で提供しても、十分利益が出るはずだ。
というのは、すでにこうした価格帯で販売している実績があるからだ。
iPod touch の 32GB版は、現在の販売価格が \29,800。これに HD化されたディスプレイが搭載されたとして、+1万円。すなわち約 4万円。これに、iPad の Wi-Fi版と 3G+Wi-Fi版の差額である 130ドル (1.2万円) を加えても、5万円代だ。無理に \54,900等に価格を揃えてはこないだろうから、\59,800 ほどがもっとも予測される価格帯。場合によっては、\69,800 からのスタートで、後はキャリアのセット割引等に期待するというのがアップルとして利益を SIMフリーという商品で、利益を最大限に得る結果につながる気がする。
もしかすると、もう少し高額になるかもしれない。iPad の日本向け価格はまだ提示されていないが、この 3G版と同額か、それより 5,000円程度安価な価格を設定してくると考えるのが自然な考え方ではないだろうか。iPad と iPhone はアップルにとって同一のビジネスモデル (端末販売 + AppStore、iTunes Store の利益) の商品であり、部品コストはほぼ同一であろうから、日本円で切りのよい料金に設定すると、違ってもせいぜい 5,000円止まりだろう。結果、6万円前後 (± 1万円) での提供となるのではないか。
NTT docomo版 iPhone は ソフトバンク版より使いやすいか?
最後に蛇足となるが、このようにして SIMフリー版の iPhone 4G + NTT docomo SIMカードという組み合わせができたとして、果たして使いやすいだろうか? という点を考えてみたい。実際のところ、不便な面も多いと想像している。メモ的にまとめた結果が下記だ。
● NTT docomo版の魅力
- 長期割引が最大限適用されている既存の NTT docomo契約を解約しなくてよい
特に家族割りの主回線などでは影響範囲も大きいため、この恩恵は大きいだろう。
- エリアの広さ
そもそも首都圏以外では、NTT docomoではないとつながらない。自宅で電波が入らないというユーザーも少なくないと言われている。この恩恵は非常に大きいはずだ。
- 通信速度
FOMA 7.2Mbps は、T-01A
で体感しているが、確かに速い。イー・モバイルや、同じ FOMA回線を利用したウィルコムの「WILLCOM CORE 3G」よりも、一人あたりに割り当てている帯域数が大きいのではないかと推測される。このあたりは、支払う通信料に見合ったものにはなっているようだ。
● SIMフリー版の際の問題点
- パケット定額サービスの設定が面倒、不安
ソフトバンク版なら、あらかじめ設定されており安心。
- キャリアメールのアドレス設定も面倒
ソフトバンク版なら、あらかじめ設定されており、変更も簡単。
- 絵文字の対応にアプリ導入が必要かも
ソフトバンク版なら「メール」アプリがそもそも対応済み。
- 既存の iモードメールアドレスを利用できない
※ 2010年秋以降は、アプリで対応できるようになるかもしれない
■ 関連リンク
・本田雅一の週刊モバイル通信 ドコモのiPad用SIM発売とiPhone 4G